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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)14499号 判決

原告

田中輝昭

ほか三名

被告

田辺昇

主文

一  被告は原告田中輝昭に対し金九〇三万四、六二一円、原告田中里惠に対し金九〇三万四、六二一円及びこれらに対する昭和五六年一二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告田中恵二に対し金九〇三万四、六二一円、原告田中惠三子に対し金九〇三万四、六二一円及びこれらに対する昭和五七年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決の第一、第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(昭和五六年(ワ)第一四四九九号事件)

1  被告は、原告田中輝昭に対し金一、二五〇万円、原告田中里惠に対し金一、二五〇万円及びこれらに対する昭和五六年一二月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(昭和五七年(ワ)第六一三号事件)

1  被告は、原告田中恵二に対し金一、二五〇万円、原告田中惠三子に対し金一、二五〇万円及びこれらに対する昭和五七年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五六年八月一一日午前三時二〇分ころ

(二) 場所 千葉県夷隅郡大原町山田九二四番地先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(千葉五五ほ四一八二号)

(四) 運転者 訴外田辺耕司(本件事故により死亡。以下「亡耕司」という。)

(五) 態様 亡耕司は、無免許にもかかわらず、時速約一〇〇キロメートルの高速で加害車を運転し、運転を誤り道路脇の工作物に激突した。

(六) 結果 加害車後部座席に同乗していた訴外田中みどり(以下「亡みどり」という。)、同田中照美(以下「亡照美」という。)が死亡した。

2  責任原因

被告は、本件加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任がある。

3  原告らの地位

(一) 原告田中輝昭、同田中里惠は、亡みどりの父母であり、同訴外人の損害賠償請求権につき各二分の一宛相続した。

(二) 原告田中恵二、同田中惠三子は、亡照美の父母であり、同訴外人の損害賠償請求権につき各二分の一宛相続した。

4  損害

(一) 逸失利益

亡みどりは、昭和三八年一月一八日生まれ、亡照美は、昭和三八年三月三一日生まれのいずれも本件事故当時満一八歳の女性であり、高等学校を卒業後、昭和五六年四月から学校法人東京スクールオブビジネスにおいてタイプを修学中であつて、昭和五七年四月から就職予定であつたものである。したがつて、亡みどり及び亡照美は、一九歳から就労可能年齢六七歳までの四八年間稼働することができるというべきであり、昭和五六年賃金センサスの高卒全年齢平均の年収額を基礎に、生活費割合を三〇パーセント、中間利息を年五分の年別ホフマン方式により控除して計算すると、その逸失利益は次のとおり各金三、二九三万九、七九六円となり、本訴においてはその内金各三、〇〇〇万円を請求する。

200万5,500×(1-0.3)×23.4639=3,293万9,796

(二) 慰謝料

原告らは、それぞれ最愛の娘を失つたものであり、その悲しみは筆舌に尽くし難く、その慰謝料は、亡みどりにつき金一、二〇〇万円、亡照美につき金一、二〇〇万円とするのが相当である。

(三) 葬儀費用

原告田中輝昭、同田中里惠は、亡みどりの葬儀費として金一〇〇万円、原告田中恵二、同田中惠三子は、亡照美の葬儀費として金一〇〇万円をそれぞれ支出し、これを平等に負担した。

(四) 損害の填補

原告田中輝昭、同田中里惠は、亡みどりの損害の填補として自賠責保険から金二、〇〇〇万円を、原告田中恵二、同田中惠三子は、亡照美の損害の填補として自賠責保険から金二、〇〇〇万円をそれぞれ受領したので、これを前記各損害額から控除すると、原告らの残損害額は各金一、一五〇万円となる。

(五) 弁護士費用

原告らは、弁護士費用として原告ら一名につき金一〇〇万円宛を請求する。

5  よつて、原告田中輝昭、同田中里惠は、被告に対し、損害金として各金一、二五〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年一二月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告田中恵二、同田中惠三子は、被告に対し、損害金として各金一、二五〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年一月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実中、亡耕司が無免許で加害車を運転し事故を起こしたことは認め、事故状況については不知、(六)の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は不知。

4  同4の損害の主張については争う。ただし、自賠責保険から原告ら主張の金額が支払われたことは認める。

5  被告は、本件加害車の運行供用者ではない。

すなわち、亡耕司は、昭和五六年四月ころ訴外勝山幹夫から、当時同人の所有していた本件加害車を、亡耕司の所有していた自家用自動車(車名コスモ)との交換により取得し、もつぱら亡耕司がこれを管理し、運行の用に供していたものであり、しかも、亡耕司は、同年六月ころ友人であつた訴外石川正一に対し、代金二〇万円で本件加害車を売渡し、かつ、そのころ引渡も済ませたのである。したがつて、本件事故当時は、亡耕司が訴外石川正一から一時的に本件加害車を借り受けていたのであり、被告が本件加害車の運行を支配したり、運行利益を享受していたことはないから、被告には自賠法三条の責任は認められない。

6  被告の責任が認められるとしても、被告は、次に述べるとおり、好意同乗による過失相殺を主張する。

亡耕司は、本件事故の発生する一五分位前に、御宿町の海岸付近で海水浴に遊びに来ていた亡みどり及び亡照美とたまたま知り合い、そこに来合わせた訴外鈴木栄吉も交えて四人でドライブに出かける話となり、開放的な気分から特に目的地もなく出発したのであつて、亡耕司が強引に誘つて同乗させたものではない。そして、本件事故は、亡耕司が高速で運転したことが大きな原因となつているが、それは途中亡みどり又は亡照美が「もつと飛ばして」と言つたことに端を発しているのであるから、本件においては、三割の好意同乗による過失相殺をすべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(一)ないし(四)、(六)の事実は、当事者間に争いがない。

本件事故の態様について判断するに、亡耕司が無免許で本件加害車を運転していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、証人鈴木栄吉の証言によれば、本件事故現場は、御宿町から夷隅町に至る幅員約四・八メートルのセンターラインのある県道であり、亡耕司は、本件加害車を運転し時速八〇キロメートル位の速度(事故現場は速度規制がないため、最高速度は時速六〇キロメートルである。)で御宿町方面から夷隅町方面に向けて進行していたこと、本件事故現場の手前約九〇メートル付近は右カーブとなつていたうえ、当時霧が濃く、また速度を出しすぎていたため、亡耕司は、右カーブにおいてハンドル操作を誤り、加害車を路外に逸脱させ、道路右側端(対向車線側)に設置されていたカーブミラー及び信号機柱に加害車を激突させ、加害車を二つに折れ曲がるほど大破させて、亡みどり及び亡照美を即死させたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  被告の運行供用者責任について判断するに、成立に争いのない乙第二号証の一ないし五、被告本人尋問の結果によれば、亡耕司は、昭和三六年六月一六日生まれの被告の二男であり、中学校を卒業後、日雇いの臨時工員などをしながら、被告と同居していたこと、亡耕司は、未だ免許を取得していないのに、昭和五六年二月ころ被告に頼んで普通乗用自動車(赤色のコスモ)を買い受けたが(その月賦は昭和五八年二月まで被告が支払つている。)、昭和五六年四月ころ訴外勝山幹夫との間で、本件加害車と交換したこと、被告も右交換を承知していたこと、本件加害車は、もつぱら亡耕司が使用し維持費も亡耕司が負担していたが、保管場所は被告方庭先であり、被告も自分の家の車と考えていたこと、本件加害車の登録名義は、もと「カツヤマヨシユキ」となつていたが、昭和五六年四月二八日所有者名義が被告に、使用者名義が亡耕司に移転されていること、本件加害車の廃車手続は、同年九月に被告が行つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、被告は、本件加害車の所有者名義が被告になつていることは知らなかつたと供述し、また本件加害車は昭和五六年七月ころ訴外石川正一に対し代金二〇万円で売渡したものであると供述しており、運行供用者責任がない旨主張する。

しかしながら、所有者名義を知らなかつたとの供述については、不自然で疑問があるのみならず、仮にそうであるとしても、前記認定事実から認められる被告と亡耕司との身分関係及び生活関係、交換前の自動車の購入代金の負担、本件加害車の交換の経緯、その後の保管場所及び保管状況等に照らすと、被告は、本件加害車の運行を事実上支配管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視・監督すべき立場にあつたというべきであるから、自賠法三条の運行供用者にあたると解される。

さらに、訴外石川正一に売渡したとの点については、被告本人尋問の結果によつても、売買の書類は一切作成されておらず、また代金二〇万円の授受はなされていないうえ、本件加害車のキーは被告が保管し、訴外石川正一に渡していなかつた、というのであつて、はたして真実売買がなされたのか疑問があるばかりか、たとえ売買の口約束がなされていたとしても、被告の運行供用者責任を免れさせるものとは到底いえない。

したがつて、被告は、亡耕司の惹起した本件加害車による事故について自賠法三条の運行供用者責任を負うべきである。

三  原告田中輝昭、同田中惠三子の各本人尋問の結果によれば、請求原因3(一)、(二)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

四  損害について判断する。

1  逸失利益

成立に争いのない甲第二号証、原告田中輝昭、同田中惠三子の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡みどりは、昭和三八年一月一八日生まれ、亡照美は、同年三月三一日生まれのいずれも本件事故当時満一八歳の女性であり、昭和五六年三月同じ私立目白学園高等学校を卒業し、同年四月から専門学校である東京スクール・オブ・ビジネスにおいてタイプを修学中であつて、昭和五七年四月から就職する予定であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみれば、亡みどり及び亡照美の就労可能年数は、一九歳から六七歳までの四八年間とみるのが相当であり、基礎収入を昭和五六年賃金センサス新高卒全年齢平均の年収金二〇〇万五、五〇〇円とし、生活費割合を三〇パーセント、中間利息を年五分の年別ライプニツツ方式により控除して算定すると、亡みどり及び亡照美の逸失利益は、次の計算式のとおり、各金二、四一六万九、二四三円になると認められる。

計算式・200万5,500×(1-0.3)×(18.1687-0.9523)=2,416万9,243

2  慰謝料

本件事故の態様、亡みどり及び照美の年齢、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故による亡みどりの慰謝料として金一、二〇〇万円、亡照美の慰謝料として金一、二〇〇万円をそれぞれ相当と認める。

3  葬儀費用

原告田中輝昭、同田中惠三子の各本人尋問の結果によれば、原告田中輝昭、同田中里惠は、亡みどりの葬儀をとり行い相当額の出費をし、原告田中恵二、同田中恵三子は、亡照美の葬儀をとり行い相当額の出費をしていることが認められるところ、本件事故と相当因果関係ある葬儀費用としては、亡みどり及び亡照美につきそれぞれ金七〇万円をもつて相当と認める。

4  損害の填補

原告田中輝昭、同田中里惠は、亡みどりの損害の填補として自賠責保険から金二、〇〇〇万円を、原告田中恵二、同田中惠三子は、亡照美の損害の填補として自賠責保険から金二、〇〇〇万円をそれぞれ受領していることが認められるので、これを前記各損害額から控除すると、原告らの残損害額は各自金八四三万四、六二一円となる。

5  弁護士費用

本件訴訟の難易、前記認容額、訴訟の経緯等諸般の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用としては、原告らそれぞれにつき各金六〇万円をもつて相当と認める。

五  被告の好意同乗による減額の主張について判断する。

本件では、加害車に同乗していた者のうち三名が死亡し、訴外鈴木栄吉しか助からなかつたため、亡みどり、亡照美がいかなる事情で加害車に同乗していたのか判然としない部分がある。訴外鈴木栄吉は、本件事故の約二〇分前に御宿町の海岸で海水浴に来ていた亡みどり、亡照美と知り合い、自然にドライブに行く話となつたのであり、途中亡みどり又は亡照美が「もつと飛ばして」と言つていた旨の供述をしている。しかしながら、訴外鈴木栄吉の右供述を全面的に措信することは、本件事案の性質からためらわれるところであり、たとえ亡みどり、亡照美が加害車に任意に同乗したものとしても、本件のように無免許で無謀な暴走行為をした亡耕司の運転態度を容認していたとは思えないから、本件においては、好意同乗による減額を相当とするような事情は認められないというべきである。したがつて、この点の被告の主張は採用の限りでない。

六  以上のとおりであるから、原告田中輝昭、同田中里惠は、被告に対し、亡みどりが死亡したことによる損害金として各金九〇三万四、六二一円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年一二月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告田中恵二、同田中惠三子は、被告に対し、亡照美が死亡したことによる損害金として各金九〇三万四、六二一円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年一月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得る筋合である。

よつて、原告らの請求はいずれも右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田聿弘)

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